四章〜葛藤の学生食堂  閑古鳥が鳴いている、返すようにカモメの声。  三方を海に囲まれ一方で山に面する石杜の地は、犬上よりも潮の香りが濃い。もっとも、街を歩けば硝煙と血の臭いがいたるところに染み付き、少しでも意識を集中させれば濃密な霊気が嗅覚を麻痺させてくる。  特異点都市、石杜。  生まれ育った犬上も特異点を抱えた地だが、二度の暴発を乗り越えた石杜に比べれば余程住みやすい街だ。魔術素養のない人間でも、石杜で半年間まっとうに過ごせば体内に蓄積した霊気が身体を作り変えてしまう。魔族や術師が集う都市として注目され、監視対象となっているが、実のところ魔術能力を持った人間しか生活できない魔境である。 (その術師だって、加減を間違えれば簡単にマノウォルトに成り果てる)  極界都市。  この世とあの世の境目とは、皮肉な仇名である。石杜で命を落としたものは、魂そのものを消滅させない限り蘇る。  人として。  バケモノとして。  あるいは、神楽のように肉海と化して。  石杜に優秀な治療術師が多いのは、最悪の事態を回避するためでもある。強烈な衝動を抱いていれば、肉片一つからも膨れ上がり全てを飲み込むモノは生まれる。多重に結界を張り巡らせ増殖速度を押さえ込んでいる都市中心部でも、バケツの水を引っくり返すほどの速さでそれは増殖を始める。  だからこそ、この街は闘争の色を宿し石壁に血と硝煙を染み込ませながらも、表向きは穏やかな空気を演出しようとしている。学園の地下に封ぜられた遺跡が再び暴走すれば、今度はどれだけの被害が生じるのか予測もできない。住まう術師や魔族は暴走を食い止める安全弁であり、同時に閉じ込められた地獄の軍団である。いつか全ての人々が異形と人間の関係を知った時に、この街が最も激しい戦場となる事は想像に難くない。  ああ。  それでも、と。  八月の強い日差しから逃れることもせず、村上文彦は学園中庭のベンチに腰掛けて空を眺めていた。  十二氏族との交渉は既に決裂し、魂を喰らうものの口よりシュゼッタの帰還と赤帝の同行を聞いた以上、彼にする事はない。赤帝の力をもってすれば、セップ島を狙おうとしている外なる神々や第一世界の連中など軽く蹴散らせるだろう。それに、シュゼッタには文彦が知る限りの事を伝えている。体術も、魔法も。五年近い歳月をセップ島で共に過ごし、その間に徹底して教えたのだ。自分が面倒を見た中ではもっとも長い時間をかけているし、素質も高い。妖精種というのは魔法に長けていると魔法猫は言ってたが、確かにその通りかもしれない。 (……じゃあ、なんでおれはここにいるんだ)  北海道でも、八月は暑い。太陽の光を直接受けるのであれば、涼しいはずがない。風を起こすなり熱を避けるなりすれば涼を得ることなど難しくもないが、そんな気分にもなれない。  と。  ベンチの隣に誰かが座る気配。  学園なのだから、生徒がいても不思議ではない。学生食堂では相席は当たり前だし、購買は行列ばかりだ。学園上層部には一目置かれている文彦でも、絶対的な有名人ではない。まして学園には文彦を凌駕する規格外が幾人もおり、そういう意味では文彦は「そこそこ腕の立つ外部の人」と認識されてもいる。  だから、声を聞くまでは文彦は別に驚いたりはしなかった。 「なんか、すっかりダメ人間ね」 「……委員長?」  こけた。  70年代のステージコントも真っ青の滑りっぷりで、文彦はベンチから転げ落ちて、中庭の芝生に尻餅をついた。  見上げれば、そこには桐山沙穂がいた。  石杜学園の制服姿で。 「今年の四月ごろは、普通の女子高生やってたのに」  なーんで、こんなところにいるのかしら。わたしってば。  他人事のようにサンドイッチをかじりながら、沙穂はしみじみ呟いた  文彦の家に行こうとして異形に襲われてから、三ヶ月も経っていない。術師になってからの時間は、もっと短い。影法師が術を仕込み、豊富な実戦経験が彼女に高度な制御力を与えたとしても、駆け出しには違いない。 「普通の生活、戻りたいか」  笑顔のまま裏拳を文彦の鼻面に叩き込み、サンドイッチの残りを飲み込む。 「記憶操作して能力封印して、偽物の記憶を植え付けて?」 「同業者への根回しもする」 「こんな世界に踏み込んだこと後悔してるけど、でも自分のやったことを否定したくない」  命を狙われたこと、命を奪ったこと。奇麗事では片付かない体験を、この短い間にどれだけ重ねただろう。術師として行動する中で命を奪い、それなのに心が動かなかったことで沙穂は己が変わったことを自覚した。 「それに、村上君のこと少しだけ分かったし」  わざとらしく手帳を開き、沙穂はそれを読み上げる。 「村上文彦。影法師と呼ばれ、三課に身を置く数少ない影使い。魔族を父に持ち、自身もまた魔人として覚醒した。第二次石杜攻防戦では学園勢力と共に行動し……」  読み上げる途中で沙穂は手帳を閉じた。 「まるでクラウド・アイアンハート」 「なんだよ、それ」 「経歴詐称疑惑の絶えない、完璧すぎる主人公。かしら」  吹奏楽部の後輩が読んでいた、ちょっとしたアニメ雑誌の記憶を引き出しながら呟く。 「てっきりマギー一門なみの癒し系拝み屋とばかり思ってたんだけど、コミックヒーロー並の経歴。前世がムー大陸の王族とか、インドの神様が守護霊についてても不思議じゃないくらい。新宿辺りでルシフェルとかベルゼバブとか呼ばれたりしないの?」 「匙加減間違えたホストクラブみたいな呼ばれ方はしない」  むしろそういう主張をするのは第一世界の連中だ。  紫色の羽で飾ったナルシストが、そんな名前を口にしたことがあった。世界を崩壊させるほどの強力な魔法剣とやらを所持し、その力の凄まじさを説明している最中に術に吹き飛ばされて消滅した。強すぎる名を背負うのは、メリットよりもリスクの方が大きい。 「村上くんって」 「うん」 「そもそも普通の学園生活とは縁がなかったのね」 「中一の頃は普通だったんだけど」  父親がまともな人間ではないとは知っていたが、その体質は継承されていないと信じていた頃だ。  将来自分が村上家の人間として術を学ぶかもしれないと覚悟はしていたが、それを回避して当たり前の人間として暮らせると信じていた時期が文彦にもあった。それが甘い考えだったのは、神楽が父を襲った日に嫌というほど思い知らされた。  だから、桐山沙穂という少女には普通の生活に戻って欲しかった。 「サホが頑張ってるわよ、普通の生活」  他人事として、沙穂は思い出したように言う。 「桐山沙穂という犬上北高校の女生徒は、サホの担当。私は、一課所属で石杜学園生徒の桐山沙穂」  微笑む沙穂の表情は少しだけ虚ろだ。  陰陽の如く本来は虚実の関係にある沙穂とサホ。一課配属を機に彼女たちは影と実体を分離し、虚像たるサホの陰陽を反転させてもう一人の桐山沙穂を生み出したのである。サホと沙穂は同一人物でありながら別個の存在となり、接続しながらも独立した思考で行動し始めた。分身のように力が分割されることもないそれは、秘儀奥義の領域である。文彦も、さすがに他人に行使することはできない。  それを、桐山沙穂は実行した。学園に徘徊する華門に願い出て、彼はそれを快諾した。独立した意識で行動を繰り返せば再び一つの人格に戻る事は難しいと断った上で。 「私は、村上くんと仲良くなりたかった」 「うちのクラスは仲良い方だろ」 「有体に言えば、恋人同士としてせーしゅんを謳歌したかったの。この桐山沙穂さんは」  炭酸飲料缶のタグを力任せに引き抜きながら、恥ずかしがることもなく沙穂は告白する。 「両想いのくせに手を握るどころか告白さえできてない佐伯君と夏木さんのように、初々しくも大胆な恋愛を妄想しておりました。このエロエロな学級委員長は」 「……あのう、桐山、さん?」 「なんでしょうか、乙女心をちっとも分かってくれないモテモテ種馬影法師さん」  笑顔が痛々しい。 「養女を迎えるのはともかく、組織の命令で何十人もの女の子を妊娠させたのはひどいと思う」 「計画が議題にあがったのが午前中なのに、昼休みまでに数十人孕ませられるのか教えてくれ委員長ついでに情報の出所も」  セップ島で数年を過ごしても、こちらの世界では数分程度の消失だった。三課でのやり取りから、こちらの時計では二時間しか経過していない。情報が漏れるにしては早すぎる。 「私とベルちゃんにも種付け話の誘いが来たのよ」 「あぁ」  嘆きか絶望か。  どちらでもいい。建前上は十七歳の文彦に子作りを強要した名家の長達がどれほど切羽詰って計画を推し進めていたのか、その様が見えてくるようだ。 「きちんと断ったけどね」 「そりゃどうも」 「親友とか恋人ならともかく、私は母親になる覚悟がまだないし。村上くんを、そういう相手として考えてもいなかった」  几帳面に制服の襟を正し、これ以上ないほど真面目に沙穂は文彦を見る。 「村上文彦くん。あなたは私の伴侶として、生涯ただ一人の男性となってくれますか?」 「共に未来を見たいと願った相手は、別にいた」  穏やかな昼休みの中庭で交わす言葉ではない。  沙穂は、わかりきったその答えを耳にして、呼気とともに脱力しベンチの背もたれに上体を預けた。 「二連敗」 「そういう冗談は好きになれない。委員長らしくない」 「本気だったら、どうするのよ」 「答えは変わらねえ」  ベンチに座り直す。背もたれに身を預けながら、どうしようもない表情で空を見上げ、呻くように答えた。 「生涯の友人になる自信はある。本音で話せる相手だし、尊敬してる。綺麗だと思うし、迫られたらたぶん我慢できない。好きか嫌いかで言えば、好きだ。大好きだ。  でも、あんたとは添い遂げられない」 「私も同じ」  辛そうに息を吐く、男と女。  一日千秋ならば。 (もう、百年くらい経ってるのか)  昼休みの終了を告げるチャイムを聞きながら、文彦はそんなことを考えた。  石杜学園は、学園の体裁を採ってはいるが教育機関ではない。勉強を教えているけど、学校法人ではない。近しい言葉を捜せば秘密結社という単語に行き当たるのだから、文科省の規定より外れた時間割を組む。  授業は二十四時間体制。  長期休暇を獲れるかどうかは、本人次第。文彦と一緒に呆けていた沙穂は、じゃあねと文彦の背中を叩いて教室に消えた。中庭を駆け抜ける生徒の幾人かが、文彦に手を振り、あるいは視線を逸らしていく。声をかけるものもいれば、そうでない者も。  それは、そうだ。  村上文彦という少年は、犬上北高校の生徒で、三課所属の術師である。石杜学園とは浅からぬ因縁ではあっても、別の道を歩んできた。 (中途半端だよな、おれ)  セップ島に召喚されて過ごした五年間を振り返りながら、考える。老化しない魔人の肉体は、十年百年でも今の姿を維持する。佐久間千秋を捜すために、自身の影を数多の世界に送り込んできた。石杜の遺跡の力を借り、幾百幾千の世界に己の存在を転送し知覚を共有した。この世界では十七歳でも、体験した情報量は違う。 (千秋は死んだ)  消滅を迎えた。  セップ島の世界が一日千秋ならば、彼女が赤帝の力を蓄えたとしても維持限界まで耐えられたはずはない。三年かけてセップ島を廻って、彼女の存在痕跡を見つけて、残り二年で彼女の死を受け入れようとした。  目の前で、二度。  今まで術師として、何人もの命を奪ってきた。その一人が特別だとしても、心が動くのは偽善だと文彦の中で意識の片割れが嘯く。たった一人の死を悔やむのであれば、今までに殺した命の重さに発狂してしまう。神の救済も社会正義もなく、自身が生きる上で命を奪う道を選んできたのだから。矛盾を抱え苦しむのは、選んだその日に覚悟したはずだ。 (……)  エーテル王国の歴史書の中に、赤帝の巫女という名で彼女の存在が記載されていた。彼女の業績を讃えた碑もあった。そこでは彼女はジョゼという王族と結ばれ、幸せな生涯を過ごしたとある。  このまま次の朝になれば、セップ島にはシュゼッタ王女の業績を讃える歴史書や碑が完成しているだろう。赤帝を駆り、外なる神々を駆逐しセップ島を救ったエーテル王国最後の王女として。  王女。  思考が、止まりかけた。事実を事実として認識したくないから、あの世界では考えもしなかった。考える余裕もなかった。 「シュゼッタは」 『確かめに行くつもりかね、影使いよ』  凛。  空気が、震える。  声は、若い男のものだ。言葉を触媒に、中庭に光条が走り法円が生まれる。赤帝召喚とは異なる、文彦も見たことのない特異な紋様である。 『確かめるのは結構。しかし今は拙い、明朝にしていただきたい』 「そういう風に言われるとすると、迅速に行動した方が良さそうだ」  声の主はまだ見えないが、気配はそこに確実に存在する。  虚空より法衣代わりの麻織ジャケットを取り出し袖を通し、文彦は立ち上がる。同時に法円は完成し、宙に向かって放たれる無数の光条が虚空に複雑な構造物を描き、それが実体化する。  現れるのは、獅子を連想させる容貌。身の丈は、文彦の倍。山吹色の髪は腰に届くまで伸び、盛り上がる筋肉は鎧がいかに無粋であるかを物語っている。身を覆うのは、白い腰布と青銅のサンダル。棍棒を掲げていればギリシア神話の英雄ヘラクレスを連想するが、この男には不思議な気品と鋭さがある。  笑うと白い歯が眩く輝くような、ちょっと敬遠したくなる気品だが。 「ふん」  男は光り輝いている。  その輝きは四方八方に淀むことなく満たされており、全ての影を消し去っていた。 「光を導くもの、かい」 『太陽王とでも名乗ろうか』  術式の触媒となる影を全て消し去ったことによる余裕からか、尊大な態度を隠そうともせず太陽王は笑う。 『万に一つの可能性を、摘ませていただく』 「ふん」  笑う、太陽王。  いつの間にか全ての授業は中断し、窓より沢山の生徒が顔を出して見物を始めていた。  太陽王を名乗るものが光を放出した時、学園にはどよめきが走った。 「ライトブリンガー」  忌まわしいものを口にするように顔をしかめ、通報を受けた夜野孔太は中庭で始まろうとする戦いを見守る。太陽王は学園への戦線を布告せず、形式上、文彦は学園とは直接の関係がない。見物している生徒達は文彦を助勢できる実力の持ち主ばかりだが、文彦が望まぬ限りは動きはしない。  無論、彼が敗れればすかさず仇を討とうとする者はいる。  ちなみに太陽王を変態とか痴漢と呼ぶ者は少ない。あの程度で騒いでいては石杜という地では暮らせないし、迂闊に突っ込んで「あんたの衣装ほどではないよ」と逆襲されそうな生徒が少なからず存在するのも、その一因である。 「影使いにとっては天敵とも呼べる存在ですね」 「普通の術師は、正面から突っ込まないし突っ込ませない」  孔太に並ぶように、窓脇に立つ華門。 「影使いとして影法師が勝つ見込みは低い」  負の衝動があっても、それを術式として具現させるための触媒がそこにはない。影使いという名は決して無意味なものではなく、本来は闇でこそ力を発揮する。 「策を練り陣を張れば相性を越えて戦うことも可能、しかし正対して挑んでくる敵にその戦法は選べない」 「じゃあ、村上さんの敗北は決定的ですか」  コミックヒーローを思わせる筋骨隆々とした太陽王を見下ろしながら、さも意外そうに孔太は正直な感想を口にした。 「影使いだったら、そもそも勝負が成立しない」 「つまり」 「野次馬の半分は、彼が魔人として戦うことを期待している。人との混血ながら、東方魔界の三氏族が王として祀り上げようとしている魔人の、本当の能力と姿を知りたがっている」  それは件の十二氏族も同じ気持ちなのだろう。気配はあっても、文彦に助勢する様子はない。 「ちなみに、残り半分は?」 「あんなもので影法師の術式を破れないと分かってるってこと」  華門の言葉が言い終わらぬ内に。  中庭での死闘が始まった。  術師の戦いは、相対する前に決着することが多い。危険への回避や術の性質もあるが、術式にはその性質上、相性の良し悪しが存在する。  五行が相克するように、陰陽も互いの存在を打ち消すよう働く。水辺ではベルの炎術が役に立たないように、影の生じない光の領域では文彦の術式は大幅に制限される。 『薄情な仲間だな』  野次馬達の力を推し量りながら、太陽王は憐れみの目を向ける。 『赤帝巫女の寵愛を受け、魔女の子と互角に戦った異界の魔王と聞いていた。暴走した霊鷹の力を一時的に中和したという話には、奮えたものだ』  自身が見世物の獅子と化している現実を嘆きつつ、批難の言葉を文彦にも向ける。 『君には幻滅したよ、影使い』 「そりゃどうも」  肩口より切り落とされた両腕を眺めながら、文彦は感情のない声をもって返答とした。鋭い切断面は高出力のレーザーメスで切断されたように、傷口が炭化している。同じ傷口は、右膝にもあり、文彦は左足のみで立っていた。想像を絶する激痛が全身を襲っているはずなのに、文彦の顔には汗一つ流れていない。 『たとえ影の力を封じ込まれたとしても、君には超人的な体術があり、魔人としての能力が備わっているはずだ』  それを駆使する間もなくやられてしまったというのか?  嘆きつつも、太陽王は右手を一閃する。手刀より放たれるのは、文字通り収束した太陽の輝き。影使いと対照的に光を操る能力者は、稀にだが存在する。その多くは神聖なる者として祝福を受け、自身を神と称する場合も多い。  光束の剣はあっさりと、文彦の首を水平に切り落とした。戦いが始まって一分あまり、文彦は術式を組み立てるどころか触れることさえできずに肉塊と化した。  無論、そう考えたのは太陽王だけである。 『私はいま非常に気分が悪い』  結界にも似た光の中では、影使いは術を組み立てられない。防御さえできなければ、一方的な虐殺となるのは目に見えている。その上で、この太陽王は後味の悪さを覚えていた。 『戦士として正々堂々と戦うことを拒絶し自ら滅びることを選んだ、この腰抜けに私は全力を尽くしてしまった。この屈辱は貴様達の命で晴らしたい』 「それは別に構わないけど」  反応したのは、華門。  指を鳴らせば、中庭を満たしていた圧倒的な量の光が消失する。  ベンチの前に現れるのは、芝生を焦がす小さな魔法円。赤帝召喚の術式を組み込んだ魔法円の中心には、五体がバラバラになった、うすっぺらい紙人形。文彦のものと思しき髪の毛が一本だけ、紙人形に貼り付いている。 「彼は、君が襲う直前に召喚されて消えた。残念だが、君が全力をかけて破壊したのはそこの紙兵」  しょっぱい顔で、下を指差す華門。 「足止めすると言ってきた相手と正直に戦う馬鹿はいないだろう?」  うんうんと生徒達は頷き、太陽王は発狂した。