『ニコラスと御使い』  あるとき羊飼いの子ニコラスは空より降りる天の御使いに出会った。  御使いは美しく若い娘の姿をしており、乳も尻もはちきれん程あふれた割には童顔だった。まっとうな感性を有した男ならば福袋をパンパンに膨らませるような萌えっぷりだが、ニコラスは大した感慨も無くその場を通り過ぎた。その際ほんの少しだけ憐れみを含んだ視線で御使いを見て、僅かにニコラスは息を吐いた。春先だから、まあこういうのもあるのだろうという表情で。 『待たれよ、そこの若人!』  色んな意味で屈辱にまみれた御使いは、人の理性と倫理に訴えかけるような衣装を半ば脱ぐようにしてニコラスの前に立ちふさがる。 『最近の若人は【天から女神三姉妹が降ってきて同居ぉ】とか【魔神娘を彼女にぃ】なんて展開を、心待ちにしているのではないのか?』  ニコラスは答えない。  答えず、もう一度だけ息を吐いて御使いの横を通りすぎようとする。三百頭の羊が彼の後を追い、冥迷と鳴きながら春の草原を歩いて行く。なんとものどかな午後の景色だ。 『若人よ、汝は若いオナゴに興味が無いというのかー?』  だーっと涙を流し御使いは問う。 『それともあれか、汝は女よりも男のほうに興味がある口なのか!? 二次元ではないと萌えな         』  次の瞬間、演説じみた絶叫に熱中していた御使いは、三百頭の羊に踏まれて地面にめりこんだ。