『しょやのはなし』  昔むかしあるところに羊飼いの若者と、押しかけるように女房になった竜の娘がおりました。  若者はすっとぼけたようでナカナカのしっかり者でしたが、竜の娘さんは若者の想像の斜め上をばく進するようなすっとこどっこいでした。なにしろ数日前まで地上に敵なしの竜だったのですから、平和がとりえの片田舎の村が無事に済むはずがありません。 「別れてしまえ」  と長が言おうものなら、泣き出した竜の娘の大声が衝撃波となって村を蹂躙します。痴話喧嘩した日には近くの山が半分吹き飛ぶことさえありました。  竜の娘は力説します。 『我は汝の妻として此処に居るのだ。妻らしいことをしたいのだ』  若者は問いかけます。 「妻らしいことというと」 『子孫繁栄』  あまりにストレートな物言いに、若者は反論できません。竜の娘はさらに続けます。 『人というのは泥をこねて増やすのだな』 「世界がちがいます」 『海水に肉の煮汁を加え電撃を発すのだな』 「可能ですが誕生までに35億年くらいかかりそうです」 『ではどうやって作るのだ』  竜の娘は不思議そうに首を傾げます。  若者は仕方なく実演してみました。  実演です。  実演といったら、実演なのです。  村人は後に語ります。 「あの時死ななかったのは何かの奇跡に違いない」  と。  そして村人は、彼らの養い子である少年に「あまり急いではいけないよ」と真顔で語り、その子があまりにも真面目に村人の忠告を守ったものですから、後々にとある国のプリンセスにひどく恨まれることになったのですが。  それはまた、別の話。