『青春の食卓』  あるところに焼き菓子で造られた美しい娘がいた。  焼き菓子職人は焼き上がった娘を前にこう言った。 「お前は菓子だが娘でもある。恋に生きるも良いし、誰かの胃袋を満たすのも良い」  そうして街に出た焼き菓子娘は、一人の若者に恋をした。  若者は旅人だが、困ったことにひどく腹を空かせていた。若者は焼き菓子娘を愛しいと思ったが、腹の虫が盛大に鳴ってしまった。  焼き菓子娘は己の美しい髪を折り、それで空腹を満たすよう若者に与えた。若者はそれを食べたが、あまりにも美味だったので腹の虫がますます大きくなった。  焼き菓子娘は己の美しい足を折り、それで空腹を満たすよう若者に与えた。腹の虫はちっとも止まらなかった。  焼き菓子娘は己の美しい腰を、腹を、乳房を、両の腕を若者に与えた。それでも若者の空腹は癒されることはなかった。  とうとう焼き菓子娘は首だけになってしまった。  焼き菓子娘は若者に懇願した。わたしを愛してくれるのなら、全て食べて欲しい。あなたの血肉となってわたしは生き続けたいと。しかし若者の胃袋は既に満たされ、腹の虫もおさまっていた。  若者はしばらく考え、やがて焼き菓子娘の頭を砕くと地面に撒いた。  匂いにつられてたくさんの鳩が集まり、焼き菓子で腹いっぱいになり動けなくなった。若者は鳩をまとめて捕まえ、そのまま何処かへ旅立った。