『けちな盗賊』  あるところに盗人の若者がいた。  盗みの技を修め、師より独り立ちを許されてはいたが、面倒なので彼はそれで身を立てようとは思わなかった。修業を終えた若者が暮らしていたのは小さな村で、物を盗もうにもろくな物がない。それでも村長の使用人として雇われた若者はそれなりに満たされた日々を送っていた。  ある日のことだ。  都より騎士を名乗る女がやってきて、こう言った。 「この村に悪魔がいる、成敗するために私はやってきた」  村人は驚き、余所者である若者が怪しいと考えた。  余所者は他にはなく、仕方なく捕らえられた若者は女騎士の前に連れ出された。 「貴様が悪魔か」  剣を抜き女騎士が問う。切っ先を突きつけられた若者は、女騎士より剣を掏り取った。 「いいえ。わたしはけちな盗賊で」  言うや若者は、今度は女騎士の鎧を掏り取った。 「村では何も盗みませんでしたがね」  続けて若者は女騎士の服を掏り取った。 「そうそう、この村に悪魔がいるという話ですが」  <最後の一枚>を掏り取って、若者は自分を囲む村人に声をかけた。  村人は、女騎士を、女騎士だったものを指差して驚いていた。それは既に女騎士ではなく、悪魔としか言いようのない異形だった。  化けの皮を剥がされた悪魔は怒り、若者の咽笛を噛み切ろうとした。  が。 「すいません、心臓も掏り取ってしまいました」  若者は申し訳無さそうに頭を下げると、既に握りつぶしてしまった悪魔の心臓を見せた。  悪魔は絶命の瞬間、ありったけの呪いを込めて若者と村人を罵ろうとした。  しかし。 「ああ。舌も抜いてあります」  やはり握りつぶした悪魔の舌を見せて頭を下げる若者。悪魔はそれを見ることなく塵となり、蘇ることはなかった。  唖然とする村人をよそに、若者はいつものように仕事を始めたという。